関大支援のため黙殺?専門家の分析を公開し、真剣なまちづくりを!

まず申し上げておきますが、私は、JR北東地区に関西大学が進出することについては、賛成の立場です。

しかしながら、今回、高槻市補正予算案として提案した、関大に対する支援のあり方については、かなり疑問がありますので、12日の市議会本会議で質問をしました。以下はそれに基づき書いたものです。


補助金交付に至る構図

9月10日のブログにも書きましたが、国土交通省所管の「暮らし・にぎわい再生事業」(以下「くらにぎ事業」といいます。)が活用されることにより、国12億円、高槻市12億円の、計24億円が、補助金として、関西大学高槻新キャンパスの一部の建設に対して交付されることになりそうです。

「くらにぎ事業」活用に至る一連の流れについて、分かりにくいかもしれませんが、以下のようにまとめてみました。

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「まちづくり3法」については、こちらのサイトが詳しいので引用すると、

まちづくり三法の改正の概要

(前略)現状のまま中心市街地が衰退し、市街地の機能が郊外へ拡散していくと、少子高齢化により人口が減少に転じる中で、地方財政が都市のインフラ維持のためのコストに耐えられなくなるとともに、高齢化や治安の悪化等によりコミュニティが荒廃するおそれもある。

こうした危機感から、近年、市街地の郊外への拡散を抑制し、まちの機能を中心市街地に集中させるコンパクトシティの考え方が提唱されている。このような状況を背景に、まちづくり三法の見直しが進められ、平成18年5月、まちづくり三法の改正法案が成立した。(後略)



ということで、極めて簡単に言うと、改正まちづくり3法は、「コンパクトシティ」形成を促進するためのものと言えるのではないかと思います。

この「まちづくり3法」のうちの一つである「中心市街地活性化法」に基づいて「基本計画」を作成し、これが内閣府に認定されれば、国土交通省所管の「くらにぎ事業」などを活用できるのです。

高槻市は、この事業の活用を見込んで、「JR北東地区」と呼ばれる再開発区域に進出する関西大学の新キャンパスの建設に、国と市、合わせて24億円の補助金を出そうとしているわけです。


高槻市が公表しない「経産省派遣の専門家」の診断と助言

奥本市長は、平成18年9月議会の冒頭で、次のように述べています。

平成18年9月定例会開会に当たってのあいさつ

(前略)
いわゆる『まちづくり三法』のうち、「中心市街地の活性化に関する法律」については、改正法に基づき、活性化に取り組む市町村に対し、新しい基本計画の策定に当たり、幅広い観点から、診断・助言を行うこととされました。

今般、本年度における当該事業の実施に当たって、本市も応募しましたところ、専門家による訪問調査等を受け、全国で23市の一つとして採択され、「診断プログラム」事業実施の支援が受けられることになりました。

今後、国の助成を念頭におき、新しい基本計画の策定に向け、更に取組を進め、まちのにぎわい、商業の活性化等、中心市街地の活性化に努めてまいります。(後略)



このように、奥本市長は、誇らしげに報告しているのですが、この、いわゆる「診断・助言事業」は、上の図の赤い矢印の部分のもので、基本計画の策定にあたって、経済産業省が派遣する専門家から、診断と助言を受けられるというものです。

議会で市長がこのように報告をしているのですから、この診断と助言の結果も、議会に報告するのが普通だと思われますが、結果の報告については、一切されませんでした。

専門家による「診断・助言事業」の結果が出されなかったわけではありません。診断・助言は「報告書」として平成19年3月に出されています。しかし、高槻市は、この報告書の存在を公表してきませんでした。

12日の議会で、なぜ公表しなかったのかと質問したところ、この専門家の報告書は基本計画の参考にするものと考えていたので公表しなかったが、「中心市街地活性化基本計画のおける基礎調査」を実施し、その報告については公表した、というような答弁でした。

若干ごまかしが感じられる答弁だったので明確に言っておきましたが、「診断・助言事業」で、平成19年3月に専門家が作った報告書を、高槻市は公表していません。その後、平成20年3月に、高槻市が作った基礎調査業務の報告書というのは、報告がされています。両者は別物です(両者を区別するために、前者を専門家の報告書、後者を基礎調査報告書と呼びます)。

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高槻市のHPの都市産業部長の「こちら部長室」を見ると、昨年度、現状分析のために、関西大学と共同調査を行ったとされていますが、補助金を受ける当事者である関西大学と調査を行うというのは問題ではないでしょうか?

高槻市において、診断・助言事業を、経済産業省からの委託で行った株式会社ソフトクリエイションという会社が作成した「18年度診断・助言事業の概要」という資料を見ると、この診断・助言指導のプログラムの一番最後に「診断・助言結果を踏まえ、今後の取組を検討し、市民への告知」「市民への報告会の開催」とあります。

他の市町村の状況をネットで検索してみると、北海道釧路市や長野県木曽町では専門家の報告書をホームページで公開していますし、宮城県塩釜市では、市民への報告会で、診断をした専門家を交えてのパネルディスカッションも行っていました。

なぜ高槻市は専門家の報告書をも公表しないのか。この診断・助言事業については、経済産業省から委託を受けた専門家が派遣されて、立派な報告書も作成されていますから、相当な額の税金が使われているはずです。それを公表しないというのはもったいない。税金の無駄遣いとも言えると思います。


■「専門家の報告書」の衝撃的な内容

9月12日のブログにアップしている報告書の一部をご覧になられた方はお分かりだと思いますが、関西大学の建設を支援するというのは、実は、専門家の分析・助言には、まったく逆行するものです。

専門家の報告書を読むと、関西大学が新キャンパスを建設する「JR北東地区」を切り離すよう助言しています。このことは、専門家の報告書の中で、何度もしつこいくらいに出てきます。というのも、この区域設定が、中心市街地の活性化においては極めて重要だからです。専門家の報告書では、区域設定が「今回の計画策定にとっては大きな意味を持つ」「計画の成果を左右する」と書かれています。

一方、高槻市が作成した基礎調査報告書では、専門家からこのように診断・助言を受けているにも関わらず、JR北東地区の切り離しについては何ら言及していません。起訴調査報告書では、区域の設定については、3つの区域案を挙げていますが、確認したところ、関西大学の新キャンパスが建設されるJR北東地区を含んだ、一番大きな区域(A案)を、中活法に基づく基本計画の区域とするとのことでした。


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専門家は、なぜ、JR北東地区を切り離した区域設定をすべきと分析しているのか。その理由として、専門家の報告書は、現在、JR北側から南側への回遊性が弱いこと、そして、JRの北側と南側で、すでに大きな格差があって、―JRの南側の「地盤沈下」が進んでいるというような言葉まで使われています― 今後も北と南の格差拡大が続くけれども、ユアサ跡地の整備計画が具現化すると、完全に中心市街地の核はJR北側に移行することが予測されることを挙げています。

JR北東地区を含むエリア設定で基本計画を組むと、その結果、大きなプロジェクトであるJR北東側の事業を中心に事業推進が行われるのではないかという危惧もされています。まさに今、関大への支援策が先行することによって、その専門家の危惧が当たりそうな状況になっています。

専門家の報告書は、「今後のJR北東地区整備に伴い、(JR南側から阪急北側までの)中間ゾーン、阪急駅南ゾーンは地盤沈下の可能性大」というふうに指摘しています。このような専門家の指摘を受けながら、「地盤沈下」を防ぐための「くらにぎ事業」の補助金を、「地盤沈下」の原因となると予測されているJR北東地区の整備に真っ先に使おうとしているのですから、高槻市役所は、行政として、南北格差をさらに拡大させようとしているとしか考えられません。


■今後の「まちづくり」をどうしていくべきか

専門家の報告書では、JRの南側の、センター街を中心とする区域に、ミニ施設を作ったり、あるいは文化的な活動をしたりして、活性化していかなければならない旨が記されています。

けれども、現時点において、高槻市は、JR南側のエリアに関する支援計画について、何も具体的なものを作っていません。一方で、専門家が切り離すよう助言しているJR北東地区の関大に対しては、国と市併せて24億円もの支援をしようとしています(平成22~23年度には、北東地区の人口デッキ部分にも、「くらにぎ事業」を活用するとしています)。

行政としては、南側の地域についての具体的な活性化計画の策定に、真っ先に取り組むべきではなかったのでしょうか。北側への支援策をいち早く表明するというのは、「高槻市は南を見捨てる」というようなメッセージを、市民に対して発していると見られても仕方がありません。

「まちづくり3法」に則り、高槻市で基本計画を作るということは、いわゆる「コンパクトシティ」を形成していくという意志の現れであると思いますが、「コンパクトシティ」というのは、高齢者でも歩き回れるような範囲内を中心市街地として設定して、そこに都市インフラを集約していくというもののはずです。そうすると、その設定区域の中に、JRの線路を入れるというのは、無理があると思います。

JRを北から南へ、あるいは南から北へ超えようとすると、約200mの距離を、往復となると約400mですが、移動しなければなりません。地下道もありますが、JR高槻駅の中央コンコースを通過する場合、普通の建物の3階の高さを上り下りしないといけない。弁天踏切に陸橋を作るとしても、やはりその上り下りというのは、特に高齢者にとってはきついはずです。それはコンパクトシティの概念にはそぐわないのではないでしょうか。

JRの南北をどれだけの人が行き交っているのか。高槻市が朝7時から夜7時までで調査を行ったら、7万7千の人や自転車が南北を縦断しているとのことでしたが、この朝7時から夜7時までというのが曲者で、朝夕には通勤のために南北を行き来している人が多いはずです。高槻市は、この調査の際に、年齢層については調べていないとのことでしたが、コンパクトシティの形成を目指すならば、通勤時間帯を除く時間に、高齢者が現状どれだけ南北を行き来しているのかなどについて調査すべきだったと思います。そうしないと、専門家が指摘する回遊性の弱さについての対策も立てられないはずです。

専門家の指摘するとおり、JR北東地区は、基本計画から外すべきではないでしょうか。そうしないと、「まちづくり」がおかしくなっていくような気がします。

なぜ、関大新キャンパスの建物のうち、レストランや生涯学習センター、コンベンションホールなどに補助するのか。「補助できるから補助する」のではなく、そこに、コンパクトシティを実現するための、戦略的な狙いがなければ、意味がありません。

議会の質疑の中で、高槻市は、専門家の報告書を今から公表することを約束してくれましたが、これまで約1年半の間、なぜ公表しなかったのか?公表すると、関西大学への支援に支障をきたすと考えたからなのではないでしょうか。そうでも考えないと、これだけ立派な、そして有意義な専門家の報告書を公表しなかった理由が分かりません。報告書が公表されなかったことを知ったら、経済産業省の方もびっくりされるんではないでしょうか。

専門家の報告書には、基本計画を策定するにあたっては、活性化協議会を組織する必要があるけれども、そこには、ニュートラルな立場で発言できる民間人も加えるべきだとの提言もあります。

ぜひ、高槻市には、専門家の報告書を広く市民に公表し、活性化協議会にはニュートラルな立場の市民の皆さんも多く入れて、真剣に「まちづくり」を考えていただきたいものです。