公共事業の精神は、通潤橋に学べ!

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小学生のとき、国語の教科書に「通潤橋」の話が載っていた。ネットで検索してみると、光村図書発行の小学6年生用の国語の教科書に「大地と人の心を潤す通潤橋」というタイトルが見られるので、この教科書で習ったのかもしれない。

通潤橋は、安政元年(1854年)、現在の熊本県上益城郡山都町(旧矢部町)に造られ、約150年経った今でも機能している水路橋である。通潤橋ができるまで、白糸台地に住む矢部郷の村民達は雨水に頼るしかなく、農作物も満足に作れないばかりか、毎日の飲み水にも事欠く有様だった。惣庄屋(そうじょうや)であった布田保之助(ふたやすのすけ)は、この惨状を救うために通潤橋の建設を企図し、資金と技術者を集めるために奔走した。

その苦労、その工夫についてはこのサイトをご参照いただきたい。保之助は私財を投げ打ち、肥後藩からも金を借りた。村民達も金を出し合った。石橋の技術は当時としては最高のものであった。しかし、水を通すための石管からはどうしても水が漏れてしまう。この解決方法については、保之助自身が研究し、苦心の末に工法を開発した。工事には村民達も大いに協力した。

難工事の末、1年8ヶ月後に橋が完成。いよいよ通水をする時、保之助は白装束を身にまとい、懐には短刀を忍ばせて、橋の中央に座った。失敗すれば、死ぬ覚悟だったのだ。

保之助の合図で水門が開かれると、水は勢いよく橋の中を通った。工事は無事成功したのだ。

この偉業により、保之助は、明治天皇から銀杯一組・絹一疋を授けられたそうである。


現在の日本の多くの無駄な公共事業や、公共事業に絡む談合事件を見るにつけ、保之助の覚悟とは程遠い意識の低さに落胆する。命を懸けろとまでは言わないが、公のためのものなのだから、それ相応の使命感・義務感・責任感が必要だ。

「地方経済の活性化・雇用対策のために公共事業が必要だ」と、政治家が地元に金を引っ張ってきた。公共事業が主な産業という地域さえある。しかし、ほとんど使われない道路や箱物を造ったり、環境を破壊したり、談合で不当な利益を掠め取られたりするなら、公共事業費を生活保護費として住民に支給したほうが無駄がないのではないかとさえ思える。

公共事業は、通潤橋のように、本当に必要なものだけを造るのが当たり前の姿だ。莫大な借金までして無駄なものを残す愚行は、後世の笑いものとなるだろう。

ただし、国鉄当時に開業した新幹線の技術が台湾に輸出されたように、やりようによっては、公共事業を利用して、世界に日本の技術の高さをアピールすることも可能だろう。通潤橋も、保之助が他の技術の高い石橋を見たことがきっかけで生まれた。プロジェクトX的な公共事業を行って技術を磨き、他に役立てることもできるはずだ。

新しい工法・技術・設計・デザイン・商品等を公共事業で使用したことが広く知れ渡れば、地方自治体にとっても、それを請け負った業者にとっても、格好のPRになる。公共事業が、いわば業者にとっての展示場・モデルハウスにもなるわけだ。そういうPR効果と引き換えに、工事代金等を安くしてくれと、大手の業者には掛け合うこともできるのではないか。あるいは、地元のベンチャー企業を育成するために、優先的に工事等に参加させることも考えられる。

通潤橋では村人達も建設に参加した。こういうふうに人の目が行き届いていれば、耐震偽装等は起こりようがない。公共事業に対する市民の関心は一般に低いが、役所や業者も建設の進捗状況をブログで毎日報告するなどして情報を公表していくべきだ。そうすれば、住民も積極的にその建物等を活用し、大切に使用するのではないか。


前出の光村図書発行の国語の教科書の「大地と人の心を潤す通潤橋」の指導要領は、次のようなものだった。

★[郷土のために]郷土の発展に尽くした先人の努力を知り,郷土のために努めようとする心情を養う。

4-(7)郷土愛,愛国心

①保之助は,どうして白糸台地に水を引こうと思ったのでしょう。
②保之助は,石と石をつなぐ方法が見つからなかった時,どんなことを考えたのでしょう。
③郷土のすばらしいところを守り育てるために,あなたには,どんなことができますか。

P.96-97 導入で活用
P.96-97を記入し郷土について考えるきっかけとする。
P.96-97 社会,総合(地域)との関連 郷土の歴史・文化遺産などを調べてまとめさせたり,郷土の発展のために尽くした人を調べさせる。★



現在の公共事業も、郷土愛や愛国心に基づいて、子孫のためにと、誇りを持って行われてほしいものだ。また、それが、住民や子ども達の郷土愛や愛国心を養うなら、なお良い。